「Essay in プログラム」(2005年3月17日、リサイタル、紀尾井ホール)
水谷川優子さんは、ザルツブルク室内管弦楽団、ザルツブルク・ゾリステンの首席奏者を務めるなど、
海外で大活躍中のチェリストである。素人の私が光栄にも水谷川さんと二度もアンサンブルをしていた
だいたことがある。水谷川さんの伯父の故近衛秀健さんが、フルート二本とチェロのために作曲して
くださった、「つるむらさき」という曲と、七瀬あゆこさんが、フルート二本、チェロ、ピアノのために作曲
してくださった、「巡礼」という曲である。
前者の曲は、鹿児島県までご一緒しての演奏旅行?のようなものであったので、音楽以外の雑談を
楽しむこともできた。チェロの腕前はもちろんのことだが、雑談の方もたいしたもの(私はこちらの方が
得意だが)で、音楽以外の話にどんどん広がり、今、ドイツでベストセラーと言えるほど読まれている
村上春樹さんの作品についてなど、楽しい会話をさせていただいた。鹿児島の焼酎にまで造詣が深い!
ようで、そのレパートリーの広さに感心してしまった。
冗談はさておき、ご一緒させていただいて、やはり水谷川優子さんのチェロの音楽性を支えるものの
広さと深さを感じた次第であった。祖父は近衞秀麿さんという、日本のオーケストラの草分けのような
大音楽家で、血統については言うまでもない。その才能をヨーロッパにおいて磨き、開花させていった
のは、本当に素晴らしいことである。
活躍の場が主としてヨーロッパなので、まだ日本ではあまり知られていないとおっしゃっていたが、
近くCDをリリースされたので、これを機会に日本の聴衆にひろく、水谷川優子さんのチェロの、深い
音色の響きが聴かれることを期待し、日本にも多くのファンができるだろうと確信している。
水谷川さんが少年院や障害者福祉施設などのボランティアコンサートに積極的に取り組んでおら
れることにも、拍手を送りたい。この経験も、水谷川さんの音楽のなかに反映されていることであろう。
コンサートのご成功を心からお祈りしている。
文化庁長官 河 合
隼 雄